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【速報】移転価格調査件数、対前年度比44%アップと急増

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1 公表された内容

国税庁は、11月8日、平成30(2018)事務年度法人税等の調査事績の概要を公表しました。
そのなかの「移転価格税制に係る実地調査の状況」によれば、調査件数は257件(前年178件)と対前年1.444%と大幅にアップしています(ちなみに平成29事務年度の伸び率は105.3%でした)。

一方、申告漏れ所得金額は、365億円(前年435億円)と対前年83.7%とダウンしています。

以上の情報から、1件当たりの是正所得は、平成29(2017)年2.4億から平成30(2018)年1.4億円へと減少したことになります。

2 分析

⑴ ローカルファイルを用い効率的な調査が実施された?

平成30(2018)事務年度は、平成28年度税制改正により移転価格文書が制度化され、実質、初年度の調査となりました。つまり、税務当局は、納税者のみなさんが準備したローカルファイルや関係書類を、必要に応じて検討のうえ、調査を実施できるようになったわけです。

ローカルファイルがあらかじめ作成・保管されていることにより、調査担当者は、相当に調査がやりやすくなったものと思われます。なぜなら、あらかじめ国外関連者がどこで、どんな事業を行っており、どのような取引が行われているかなどが、ローカルファイルを見れば、一目瞭然となったからです。それどころか、適正利益率がどの程度であり、納税者の実績値がどうであったか、その結果、適正利益率レンジ(幅)に実績値が入っているのか・いないのかまでも、労せず把握できることになりました。
その結果、問題がある取引を早期に絞り込み、時間を掛けずに調査を展開できたことが、大幅な調査件数の増につながっているものと考えられます。

⑵ 税務署所掌の会社も多くの調査を受けた?

これまでは、主として国税局所掌の会社に対して、移転価格調査は実施されてきました。しかし、ローカルファイルが作成されている会社であれば、問題の有無の検討は、上の説明のとおり、ある程度は容易です。

短期間に効率的な調査が実施できれば、国税局所掌と税務署所掌の会社に対して、調査の偏りを生じさせる必要はないと言えるのかも知れません。つまりは、是々非々で処理をするという方針が、当局により取られたと見ることもできるでしょう。

⑶ どうして「申告漏れ所得金額」は減少したのか?

移転価格は、事案によっては、所得金額でみて数10億円、数100億円単位の是正も珍しくありません。そのため、1件、大口の申告漏れ事案があれば、その年度の1件当たりの申告漏れ金額が、大きく変動することも珍しくないでしょう。そこで、この点にウェイトを置いた分析は、あまり有用とはいえないでしょう。

ただ、気になるのは、是正された中身です。

「移転価格税制に係る実地調査の状況」で取りまとめられている「移転価格税制」の対象は、本格的な移転価格調査もあれば、グループ企業内の役務提供取引(いわゆるIGS)、親子ローンの金利取引など多様でしょう。

棚卸資産取引やロイヤリティ取引などを扱う本格的な移転価格事案と、他の取引とは、その取引規模などから、是正される金額も大きく異なるでしょう。そのため、対象取引が、どのような内容であったかが気になるのです。

ただ、1件当たりの金額を計算すると、平均しても億単位であることや、総額で365億円であることなどから、作成されたローカルファイルの検討による、調査日数をかけない調査や、比較的容易に問題把握できるIGSや金利の是正が対象であったのではないか、と推察されます。

3 今後について

移転価格のコンセプトは、独立した第三者が行う取引に国外関連取引を引き直して計算することであり、それ自体はシンプルです。しかし、移転価格の専門家からすると、価格の歪みによって所得移転が生じているのか、はたまた別の要因で「そう見えているだけなのか」は慎重に判断すべきです。そして、その判断はとても難しいものです。

仮に、税務署所掌の会社があまり移転価格の経験のない調査官によって、単に率の高低だけを問題視されて課税されるようなことになれば、これは重大かつ深刻な問題です。

そうした事態になっていないかを、今後の調査の対応や動向に注視しながら見ていきたいものです。

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