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移転価格の視点から考えるデジタル課税の議論

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1.現状

今回取り上げるのは、デジタル課税の議論です。

この6月8-9日の両日、福岡市で開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議において、法人税の世界共通ルールを見直す方針が確認されました。遡る5月末には、経済協力開発機構(OECD)において、デジタル経済に対応した国際課税ルールの見直しを、2020年末までに行うとする作業計画が公表されてもいます。作業計画では、利用者がいる国に税収を配分する方針であり、今月末、大阪市で開催されるG20サミットにおいては、この基本方針が採択されるのではないかとの見通しも報じられています。しかし年初ころは、今回のサミットで具体的な課税ルールまで決定される見通しでしたから、議論が紛糾しているのも事実であり、今後の進展が注目されるところです。

さて、この問題の根幹は、「PE(恒久的施設)無ければ事業所得課税なし」の国際ルールに従えば、米IT大手4社であるGAFAなどのインターネットサイトを利用したプラットフォーマーに課税することができないことにあります。そこで、そのルールの見直しとなるわけですが、本稿では、すこし角度を変えて、いま提案されている3つの案を、移転価格の視点で見てみようとおもいます。

2.「3つの案」

現在の案としては、米国案、英国案、新興国案の3つです。

まず、米国案は、無形資産に着目し、収益を生む無形資産をマーケティング活動などにより形成した企業は、企業が実質的に利益をうみだした国および地域において、所得(利益)を申告すべきというものです。つまり、無形資産が形成された国および地域に、その所得(利益)が付けられることになります。

次に、英国案は、デジタルコンテンツの利用者(消費者)のプラットフォーマー企業に対する貢献度に応じて所得(利益)を付けるというものです。

新興国案は、データ量に着目し、利用者のいる国へのデータ量に応じて所得(利益)を付けるというものです。

3.米国案を移転価格の視点でみる

まず、米国案では、BEPSプロジェクトの行動計画8-10で議論された無形資産そのものの課題があてはまります。2015年10月に出た最終報告書、それをそっくり反映したかたちで改訂された2017年OECD移転価格ガイドライン(以下、「ガイドライン」といいます。)では、結局、無形資産の定義づけは厳密には行わず、「『無形資産』という用語は、有形資産や金融資産ではなく、商業活動で使用するに当たり所有又は支配することができ、比較可能な状況での非関連者間取引においては、その使用又は移転によって対価が生じるものを指すことを意図している。(以下、略)」(パラグラフ6.6)にとどめました。

もっといえば、2017年版ガイドライン以前にあった「マーケティング無形資産」の定義を削除し、マーケティング無形資産を厳密に定義しないことで、無形資産の解釈を広げていける余地を持たせたのです。

そのため、米国案では、BEPSプロジェクトでは曖昧な無形資産の定義が、かえって問題となってくるのです。

つまり、課税庁が課税の投網をかける際に、国により定義づけが異なれば、他国においては認められたものが、ある国では無形資産と捉えられ、それが超過収益を生む重要な無形資産だとして課税を受けてしまう可能性があります。その結果、二重課税が生じてしまう事態も起こりかねません。

ただ、この問題は、それだけにとどまらないのです。なぜなら、GAFAに限って適用される問題ではないためです。GAFA以外のプラットフォーマーや越境ビジネスを営む企業全般に適用され、課税されてしまう恐れもあるからです。

デジタルコンテンツのプラットフォーマーに限れば、圧倒的にそれら企業は米国企業といえるでしょう。本店所在が他国であったとしても、米国内で無形資産が形成されたことを否定することはなかなかできないでしょう。米国が無形資産に着目した案を強く主張し、他の2案になびかない理由も、そこにあります。

実際の配分計算においては、残余利益分割法(RPSM)がイメージできます。残余利益の部分を、無形資産の形成の貢献度で分割することなるため、100対0で米国が総取りするということもあり得るでしょう。

4.英国案を移転価格の視点でみる

英国案は、いわば利益分割(PS)法といえます。ただ、PS法は、通常、ネット所得、つまり売上総利益あるいは営業利益を合算したものを「合算利益」として利用しますが、英国案では、グロスである売上高となる余地があります。この背景には、結局まとまらずに終わってしまいましたが、EU暫定案のデジタルサービス税が、課税ベースを売上高として、それに税率3%を課すという思考回路が残っているためです。仮に、通常のPS法とした場合には、分配を求める国々が、いちど営業利益まで計算し、これを合算した後に分割ファクターで配分することになります。

英国案を実施するうえでは、この分割ファクターに課題があります。通常、分割ファクターは、配分を求める参加企業の内なる数値を利用します。客観性を保つためです。しかし、英国案では、利用者(消費者)のプラットフォーマー企業に対する貢献度ですから、貢献度の測定が問題となります。結局、売上高で貢献度を見るのであれば、超過収益を生むために貢献した米国などの評価はいっさい行われないことになり、米国の強い抵抗があることは容易に想像できます。では、それに代わるものは何かあるのかとなれば、すぐには思いつかないというのが実状ではないのでしょうか。

一方、プラットフォームがあるからこそ超過収益が生まれるという事実を誰も否定はできないでしょうから、その部分の貢献分を与えないかたちのままであれば、米国の反対により採択される余地は少ないのではないかと思われます。

また、BEPSプロジェクトの行動計画8-10の最終報告書では、「移転価格税制と価値創造の一致」を標榜しているだけに、英国案を貫き通せば、それにも反することになってしまいます。

5.新興国案を移転価格の視点でみる

新興国案は、インドなどが主張しているものです。この考えのベースは、BEPSプロジェクトの「行動計画1:電子経済の課税上の課題への対処」の最終報告書の中で、「重要な経済的拠点」(Significant Economic Presence)なる判断基準が示されたことにあります。

この考え方は、利用者(消費者)とプラットフォーマー企業との間に取引を行う「場」があると解し、そこがPEにかわるものと考えるものです。行動計画1の成果物は、いまだ課税のルール化に至っていませんが、その発想に基づきます。

ただ、仮に、データ量を捕捉できたとして、配分するものが売上高なのか、利益なのかが不明です。売上高だとすれば、グロス課税になることから、経費をどう扱うのかの問題が生じます。ネット(純額)の利益である場合は、グローバルの損益計算書を作成しなければ配分には至れません。

そして、後者の考え方を採れば、ガイドラインで「独立企業原則によらないアプローチ」として排除されている「全世界的定式配分」に陥る危険性をはらんでいることになります。つまり、機能分析や比較可能性分析を無視した課税が行われてしまいかねません。

6.おわりに

デジタル課税とて海外取引であり、租税条約の守備範囲であることは間違いありません。OECD加盟国であれば、OECDモデル租税条約があり、第24条で「無差別待遇」を置いており、その適用を受けるはずです。

そのため、特定の企業(例えば、GAFA)が多額の所得を稼いでいるとしても、あくまでもルールに則り内外無差別に課税は行われなければなりません。それが法治国家であり、租税法律主義なのです。そうした視点に立ったとき、新興国案は他の2案に劣後するといえるかも知れません。

その一方で、米国案、英国案であれば、対象となる納税者は広がるでしょう。そして、両案では、無形資産と分割ファクターが性格は異なるものの、牙を向いてくることになります。そして、BEPSプロジェクトの成果物と齟齬のないようにデジタル課税のルールの落としどころを見つけなければならず、そこにも難しさがあるといえるでしょう。

以 上

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