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最新「OECD移転価格ガイドライン」(2017年版)の注目すべき点(3)

この10月、ついに製本された『移転価格ガイドライン~「多国籍企業と税務当局のための移転価格算定に関する指針」2017年版』が、日本租税研究協会から発売されました。価格は1冊2,500円(税別)です。
手に取り最初に思うのは、ずいぶん厚くなったなあ、ということです。中をパラパラめくりながら、本文もさることながら、別添の多さに驚きます。前の版(2010年版)にも同じような付録が載っていました。ページ数にして51ページです。今回は、なんと135ページもあります。全ページで463ページですから、実に全体の約3割が別添ということになります。ということは、本文だけを読んでいたのでは、7割しか知っていないということになるのでしょうか?まあ、それほど極端な話ではないのでしょうが、やはり別添も読み、よく理解しておく必要があるでしょう。
他に気づくことは、残念なことに日本後版には用語集(Glossary)がないことです。じゃあ、英語版にもないのかとなると、これがちゃんとあります。英語版にあって、日本語版にない。何ということでしょうか!たかが定義と思われる方もおいでかも知れませんが、例えば、無形資産については、BEPS行動計画で一番わたしたちの関心を引いた事項です。その定義とあれば知りたいところです。そのうえ、BEPS行動計画の最終報告書には、ガイドラインのMarketing Intangibleの定義を変更するとまで明記されていたのですから。
ですから、2010年版まで日本語で「マーケティング上の無形資産」とあった箇所は、当然、変更されているのです。繰り返しになりますが、英語版には、ちゃんと変更された定義が載っています。まあ、英語で読めばいいじゃないの、ということになるのかも知れませんが、何でしょうかね、この対応は。日本の移転価格事務運営指針では、「調査又は事前確認審査に当たっては、必要に応じOECD移転価格ガイドラインを参考にし、適切な執行に努める」といっています。当局が参考にするといっている当の現物を、日本語ですべて読むことのできない現状は、租税法律主義を考えると、首を傾げたくなります。
いま1つが、やはり2018年10月に、2017年版を手にする事実です。2018年6月には、以前取り上げましたが、「Revised Guidance on the Application of the Transactional Profit Split Method」がOECDで出来上がっており、今後、これを受け2018年以降の版に反映されるのです。これも現段階ではOECDのウエブサイト上で、やはり英語で見るしか手はないのです。
最新のガイドラインでありながら、最新でない――。製本されたガイドラインを手にしながら、思わずうなってしまいました。

さて、気を取り直し、第1章での積み残しのテーマについて、触れて参りましょう。

無形資産を検討する中から出てきた第1章の内容

取り上げるのは、集合労働力とグループ・シナジーです。
この2つは、このシリーズの前回で取り上げたロケーション・セービングなどと一緒に、2017年版ガイドラインに載ってきました。言い方を変えれば、BEPSで議論され、第1章に格納されたわけです。もっといえば、「無形資産とは何ぞや?」という議論が行われ、「これは無形資産じゃないね」という整理がされたものが、第1章に来ています。
そもそも第1章は「独立企業原則」を取り扱っていますから、「関連者間取引の正確な描写プロセス」に関してでもあります。そのプロセスを描写をする際、超過収益を生む無形資産か、そうでないかは、次の比較可能性分析に繋げていくうえで大変重要になります。超過収益を生む無形資産だと認定できる余地があれば、より厳密な分析を第6章に基づき要求され、比較可能性による分析からは、比喩的な言い方をすれば、離れたアプローチを取っていくことになるからです。
一方、正確な描写をし得るガイドラインのフレーズを使えば、「経済的な特徴」「比較可能性の要素」だとなれば、あくまでも比較可能性の中で考え、比較対象取引を選定する作業、すなわち比較可能性分析(第3章)へと流れていくことになります。
ですから、集合労働力やグループ・シナジーは、前回扱ったロケーション・セービング、その他現地市場の特徴については、一義的には無形資産ではない比較可能性で対応とすると、2017版ガイドラインを整理したことになります。

集合労働力

筆者が、集合労働力という用語を耳にしたのは、2009年ごろです。OECDでの議論をフォローするなか、この用語を初めて耳にしたときの違和感は、今でもよく覚えています。「集合」と「労働力」とが、どうも上手く私のなかで結びつかなかったからです。
「他にはないような資格や経験を有する重要な従業員を集めることに成功している企業」(パラ1.152)。これは、綾野剛氏主演で最近テレビ放映された『ハゲタカ』のハゲタカファンドが、該当するといえるでしょう。各人のスキルは大変高く、情報などをあらゆるところから収集する能力が高く、また分析力も長けている――そうした集合体を、集合労働力と表しているわけです。ハゲタカファンドでは、一定のメンバーが抜けてしまえば、組織としての「生産の効率性」が落ちてしまうわけです。そのため、もしこうした集合体が存在した場合には、比較可能性の差異調整を行えと同パラではいっています。
ただ、実務上、こうした差異調整をどのように行い得るのかについては、いろいろ考えてしまします。差異調整の1つのアプローチとして、1人当たり売上高や、売上高を給与で割った給与売上高割合などにより、差異調整を行うということが思いつきます。ただ、そうしたアプローチは、むしろ比較可能性の問題、すなわち比較対象取引を選定する際のスクリーニング基準の1つではないか、と考えたりします。
何かご意見がおありであれば、お聞かせください。

グループ・シナジー

シナジー(synergy)は、「共に」「同時に」という意味のsynとエネルギーのenergyの合成語で、80年代ごろから経営学でよく取り上げられ、今や誰もが知る言葉となりました。
ガイドラインでは、具体例として、総合的な経済規模や購買力、総合的な統合型のコンピューター・通信システム、統合的なマネジメント、借入能力の拡大などを挙げています。それらについては、多国籍企業グループのシナジーは、比較可能性の問題及び比較可能性の差異調整の必要性が発生する可能性があるとしています(パラ1.157)。
また、多国籍企業グループのメンバーによる計画的な協調活動や役務提供などの機能の遂行を伴わない場合、グループのメンバーシップから生ずるシナジーによる便益には、対価を支払う必要はないし、メンバー間で具体的に配分する必要はない(パラ1.158)ともいっています。そして、多国籍企業グループが、市場における重大で明らかに特定可能な組織的なメリット・ デメリットを与えるかどうかは、徹底的な機能分析及び比較可能性分析により判断(パラ1.159)するように注意喚起しています。ここでも機能分析が重要視され、第3章による比較可能性分析によって比較対象取引を選定せよというわけです。

グループ・シナジーの5つの事例

2017年版ガイドラインには、多くの事例が載っています。グループ・シナジーについては、
①金融サービス事業を行う多国籍企業グループのケース
②借入れ保証のあるケース
③グループ全体の購買力を背景とした交渉力に基づく役務提供のケース
④グループ及びグループのメンバーを代表して割引交渉を行うケース
⑤グループの計画的な協調活動として取決められた割引購入のケース
の5つがあります。
これら1つ1つに解説が加えられていることから、事例を通じて、グループ・シナジーに対する移転価格の考え方が理解できるものと思われます。

(続く)

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