移転価格辞典
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移転価格文書の作成ポイント

ここからは、移転価格文書の具体的な作成ポイントについて説明していきます。一般に、移転価格を説明する書類には、
①価格設定方針を定める目的の書類、
②過去の特定の年度の移転価格が妥当であることを説明する書類、
③相互協議や事前確認(APA)
の申請書類の3種類があります。
このうち、通常「移転価格文書」と呼ばれるのは②です。
この章では②の移転価格文書の構成例と記載例について解説します。

画像 (図表3-1)移転価格文書の目次

前章でも紹介したように、移転価格文書の備付は日本でも間接的に義務化されました。多くの会社が移転価格の検討を行い、その内容を移転価格文書にまとめています。
その移転価格の検討については、OECD移転価格ガイドラインをはじめ、法令通達においてあるべき姿が示されているところです。
しかし、現実が理論上のあるべき姿どおりとなっているケースは、非常に少ないと思われます。

例えば、移転価格調査においては、事実認定が問題となるケースが多いと思います。
機能リスク分析を行ったうえで導き出されるのは、その会社の機能リスクの負担状況、重要な無形資産の特定とその所有者、および独自の機能の存在です。しかし、結論は必ずしも白黒明確なものばかりではありません。
非常に複雑な事実関係についても、見極めをつけていずれかの移転価格算定方法を当てはめていくことになります。
その過程には多くの分岐点が存在し、どの程度妥協が許されるか、どの程度の正確性を要するのかといった勘所があります。
このような理論を現実にあてはめる作業を行う際の移転価格分析の判断基準は、「どちらがより合理的か」という点ではないかと思います。
移転価格分析の作業を進めるうえで、多くの分岐点に差し掛かります。
例えば、この情報は、文書に載せるべきか省略するか、載せるとどのような影響があるか、また、載せないとどのような影響があるか、そして最も合理的なのはどうすることか等を考えてみる必要があるかもしれません。
また、この情報は、経済分析においてこの比較対象企業を除外したことの根拠として必要な情報かもしれないが、この情報を載せることで、この後に強調したい別の要素が目立ちにくくなってしまうといった議論を経ることによって、「より合理的な」選択をし続けることになります。
移転価格税制のコンサルタントは、移転価格文書に必要な情報を重視し、移転価格分析にとって重要性の高い情報を中心に収集します。
したがって、納税者である会社の視点とは違った見方をするため、しばしばその分析結果に違和感を持つ会社もあります。
ある会社の比較対象企業として、同じ産業分類の会社からいくつかが選定されます。
その中には、常日頃から追いつけ追い越せと思っているライバル会社も出てきます。
あの会社の製品との差別化、あの会社の製造技術との差別化、差別化によって優位に立つことを日々精進しているわけです。
しかし、比較可能な第三者の情報として、ライバル会社が選ばれてしまいます。
コンサルタントは本当に当社のことをわかっているのだろうかと、疑念を抱くかもしれません。 このような問題は、目的の違いに原因があります。
実際にはライバル会社の製品や製造技術には違いがあるでしょう。しかし、現実には、ライバル会社以外により似ている企業が見つからないのです。見つからないから諦める、では移転価格の妥当性が証明できません。
ですから、見つかる範囲で、その「似ている」の基準を下げることになります。
例えば、長野県産のリンゴの値段を検証するなら、同じ長野県のリンゴの値段を調べるでしょう。しかし、長野県のリンゴの値段が入手できないのであれば、少し離れますが青森県のリンゴの値段でもそれほど変わらないでしょう。
それも手に入らない場合や、どこのリンゴの値段も手に入らない場合には、リンゴに近い別の果物の値段なら参考になるかもしれません。
このように「似ている」の基準を下げ、入手可能な情報にたどり着けるまで、条件を広げた結果が、ライバル会社だったということです。
移転価格分析を行うにあたっては、独立した第三者の情報との類似点を見つける方向に頭を切り替えていく必要があります。
ところで、移転価格分析への取り組み方として、すべてをコンサルタントに任せてしまうことがよいでしょうか、それともできる部分は会社で行うべきでしょうか。
すべてをコンサルタントに任せてしまう場合、コンサルタントは移転価格の分析作業の初期段階で、資料の提出依頼を行います。
会社内で作成している資料のうち、製品概要、取引概要、グループ、拠点、機能などを読み取れる資料がその対象となります
。会社案内のパンフレット、グループ企業一覧、グループ内の取引金額、仕入先や得意先に関する資料などを確認し、これらを基に機能やリスクの負担関係を確認するための聴き取り調査項目を作成します。
各部署で実務を掌握している担当者にインタビューを行い、機能リスクの負担関係の裏づけを行うとともに、会社の無形資産の特定と所有関係を明らかにしていきます。
これらの事実分析および機能リスク分析は、移転価格算定方法の選定に間違いが生じないよう、慎重に時間をかけて行うことが通常で、会社にとってその対応は大きな負担になるでしょう。
しかし、会社の担当者であれば容易にアクセスできる情報ばかりです。
事実分析および機能リスク分析については、少し要領をつかめれば、コンサルタントに依頼しなくても自社である程度の精度のものが作成できるのではないかと思います。
一方、経済分析は、データベースの使用料の問題や、税務当局との議論の経験により身につく感覚がものをいう作業になるため、コンサルタントに依頼せざるを得ない部分といえます。
しかしそれ以外のところは、できるところは会社内で作成することにより移転価格対策のコストを一定程度抑えることができるものと思われます。

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